10年前はベンチャーキャピタルという仕事に就くとは想像もしませんでした。

その時々で最もチャレンジングでワクワクする仕事を選ぶ。メーカー、コンサル、VCと一貫性がないキャリアですが、振り返るとConneting the dotsのような連続性を感じています。

「ウォークマンのようなクールでエポックメイキングなプロダクトを世界に」

インドネシアで過ごした幼少期の90年代当時、圧倒的存在感を放つSONYやトヨタ等の日本製品は、インドネシアの人々の憧れと尊敬の対象でした。小学生ながらその光景は強く目に焼き付いており、世界中に自分の関わった製品を広めることを思い描き新卒で世界最大のガラスメーカーに入社しました。

AGCでは生産管理から海外営業まで「現場感」と「0→1→100」を経験できる最高の環境でした。そして、モノを売ること同じくらい、産業が芽吹く瞬間は興奮を感じさせるものでした。2010年代、中国で垂直的に立ち上がるスマホ産業は莫大な投資マネーとヒトを吸い込むダイナミズムに満ちていました。そのスケールに圧倒されると共に、どこか焦燥感と嫉妬に似た感覚を抱いていました。

「産業づくりを外から仕掛けたい」

その思いが日に日に強くなり、より企業をエンパワーすることができるコンサルティング業にチャレンジの場を移しました。大企業における0→1の事業作り、M&Aや組織/拠点の構造改革。数兆円規模の会社の経営会議に参加することもあれば、工場現場のプロジェクトでオイルまみれにこともありました。

無我夢中で日々クライアントに向き合う中で、徐々に「新たな産業を創るには何が鍵になるのか？」という問いに対する自分なりの仮説が浮かんできました。

「起業家こそ、産業の”梃子”」

それは、「ヒト」こそが事業をつくるということです。そして、チャレンジングなテーマや領域ほど、「ヒト」の要素が成否を分ける。自ら事業を興し、人生をかけて長期間コミットできる起業家こそ「産業作りの鍵」であると自分なりの結論を出しました。34歳という業界的には少々遅いスタートでありましたが、ベンチャーキャピタルの世界を志しました。

約2200年前、数学者アルキメデスは「てこの原理」を用いた動滑車によって巨大な船を持ち上げました。現代においても、この基本原理は巨大建造物を建てる際に応用されています。

小さい力で大きな力を生み出す。これまでのVCキャリアを通じ、スタートアップこそが巨大産業における「てこ」になると確信しています。

成果を出すまでには、早くて5年、場合によっては10年以上の時間を要します。私は、起業家が見据える長期の野心的な北極星(dot)を信じ、その旅路で出会う数多の困難に共に向き合っていくことで、子供の世代に残せる新たな産業づくりにコミットしたいと思います。