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2025.9.19

GCP EIRから世界へ──BoostDraft藤井CEOが語る、海外展開のリアル

「海外展開は創業者が自ら動かないと成功しない」──。 BoostDraftは、リーガルテック領域で弁護士・法務部の業務を支援するソフトを開発し、創業からわずか数年で日本を飛び出し、アメリカや韓国を中心にグローバル展開を進めています。 今回は、GCP EIRを経て起業した代表取締役CEOの藤井陽平さんをゲストに迎え、プロダクト・Go to Market・組織の3つの軸から、スタートアップが海外進出を考える上で欠かせないリアルを伺いました。リーガルテック企業BoostDraftの藤井社長が語る、外部調達に依存しない海外展開の実体験。同社は、創業4年で50名体制・黒字経営を実現し、日本・アメリカ・韓国など複数国で事業を展開。

創業者自らが3年間アメリカに移住し、日米の市場構造や意思決定プロセスの違いに直面しながら顧客獲得に奔走した生々しい体験談をお話しいただきました。

創業経緯と事業概要:外部調達なしで黒字経営を実現した軌跡

GCP深川) 本日はBoostDraft社の藤井社長にお越しいただいております。

よろしくお願いいたします。まず、会社のご紹介とご自身の経歴についてお聞かせください。

藤井氏) BoostDraftの代表取締役社長の藤井です。もともとNTT研究所でソフトウェアの研究開発に従事しておりまして、そこから転職してベイン・アンド・カンパニーという経営コンサルティングファームに約6年間在籍しておりました。深川さんとはそこで同僚として、直接同じプロジェクトを担当することはありませんでしたが、非常に良好な関係を築いておりました。

その後、MITのMBAに進学いたしました。1年目の途中でコロナ禍となったタイミングで日本に帰国し、1年目と2年目の間にGCPでEIRとしてインターンをしながら、自身のスタートアップのアイデアを深めることに取り組みました。そのGCPでのインターンが終了した後、大学を休学してBoostDraftという会社を、スタンフォードのMBAに在学中だった渡邊と共に設立いたしました。

当社が手掛けているのはリーガルテックという領域で、弁護士や企業の法務部員向けに契約書や法的文書の自動化ソフトウェアを提供しております。

AIレビューなどAIを活用したサービスは数多く存在しますが、当社の特徴は、AIを使った文書内容のブラッシュアップではなく、その周辺業務である、誰もが煩雑と感じる作業の自動化に特化している点です。具体的には、インデントの調整や、大量のスクロール作業といった手間のかかる作業を自動化するソフトウェアを開発しております。

2021年4月の創業ですので、ちょうど4年を少し経過し、現在5年目に入っております。

GCP深川) 外部からの資金調達は行われていないということですね。

藤井氏)基本的に外部調達は行わずに事業を開始いたしました。会社設立時には約9ヶ月の準備期間があり、その間にプロダクトを開発し、最初の大口顧客を獲得できました。その売上を原資として会社を拡大していった結果、気づけば資金調達を行わずに済んでいたという状況です。

GCP深川) 事業のKPIや組織規模について教えてください。

藤井氏) 現在、社員数は約50名です。売上についても、創業以来一貫して黒字経営を続けており、組織を維持できる水準の売上を確保しております。

GCP深川) 事前に拝見した記事では、2年前に億単位の利益を計上されていましたね。

藤井氏) その通りです。当時は売上の伸びに対して採用が追いついていない状況があり、結果として約1億円の利益を計上いたしました。しかし最近では、売上が年率2倍程度で成長する一方で、人員も適切に拡充してプロダクトのさらなる開発や隣接領域への展開を進めており、利益を適切にコントロールして過度な利益計上を避けております。ただし、大幅な赤字を計上することはなく、継続して黒字経営を維持しております。

Day1からのグローバル展開戦略:プロダクト設計による競争優位

GCP深川) 海外展開を本格的に推進されており、過去3年間、藤井さんがアメリカに移住して事業を展開されていましたね。

藤井氏) はい。海外展開については、本当にDay1から海外を見据えて進めてきました。現在では実際に顧客がいる国として、日本以外にもアメリカ、カナダ、韓国、イギリスなど、幅広い国に展開しています。

その中で、特に重要と位置づけていたのがアメリカと韓国です。特にアメリカについては、私が会社を創業した翌年には移住し、そこで自ら顧客開拓を始め、チームを構築するということを継続して行っていました。最近日本に帰国しましたが、それまでの約3年間、創業してからほぼ全期間をアメリカで過ごしていました。

GCP深川) 今回は海外展開、かつDay1からグローバルに近い形で事業を展開されているという点、そしてそれを外部資金調達なしに実現されているという点について詳しくお聞きしたいと思います。どの程度成功されているのか、KPIや数値についてお聞かせください。

藤井氏) 売上のボリュームとしては、海外の割合はそれほど大きくはありません。現時点では日本事業が急速に拡大しているためです。

成功度合いについてですが、既存のアメリカの弁護士事務所の顧客から新しいクライアントをご紹介いただいたり、ファームの規模拡大に伴って追加導入していただくなど、アップセルが継続的に発生しています。こうした状況から、一定程度のプロダクトマーケットフィットは確実に達成できており、時間をかければ必ず成長するという確信を持っています。

顧客獲得には相当のリソースが必要ですが、顧客数が継続的に増加しているため、ある程度の成長軌道が見えてきているという状況です。そういう意味で順調に進展していると考えています。

GCP深川) 現在の売上比率、顧客数比率、および会社のリソース配分について教えてください。

藤井氏) リソース配分については説明が複雑で、50名程度の組織のうちプロダクトチームが約7割を占めています。残りが営業ですが、7割のプロダクトチームは主に共通部分を開発しており、ローカライズに関しては全体の1割程度の工数しかかけていないため、リソース配分という観点では単純に測りにくい状況です。

営業に関しては、日本の営業を10とした場合、アメリカの営業は2程度のリソース配分となっています。売上もそれと同程度か、アメリカの方がやや少ない程度です。

GCP深川) プロダクトについて、地域や国によってどの程度ローカライズを行うかは、海外進出するソフトウェア企業が共通して直面する課題だと思いますが、BoostDraftではどのような対応をされているのでしょうか。

藤井氏) 当社が海外展開で成功している理由にも関連するのですが、日本市場向けプロダクトとアメリカ市場向けプロダクトは完全に一致しています。

もちろんアメリカ市場向けに若干のカスタマイズは行っていますが、そのカスタマイズ内容は日本にも適用するなど、コードベースは完全に共通で展開しています。日本企業も英語でソフトウェアを使用し、英語のドキュメントを参照することが多いため、コードベースを完全に統一して、日本、韓国、アメリカに販売するという形になっています。

GCP深川) 最初に開発されたのは日本語のドキュメント対応で、顧客が英語のリーガルドキュメントも使用するため英語版も当初から存在していたということでしょうか。

藤井氏) 当初は完全に日本語のみで開発していました。アメリカ展開を積極的に推進したいという意向と、日本の顧客も英語を使用するという理由から、英語サポートを実装したという経緯です。実際、英語サポートにかける工数は、全体のコードベースを100とした場合10程度で、残りの90は共通部分を使用しています。

GCP深川) 韓国など英語圏以外の地域にも展開されていますね。

藤井氏) 韓国については韓国語対応を実装し、約2年前に韓国人チームメンバーを採用して、その方がリードして韓国語対応、いわゆる先ほど申し上げた10%部分の開発を行いました。それが最近ローンチし、韓国の大手弁護士事務所や、著名なメッセージアプリを運営していた日韓企業などにもご導入いただくなど、幅広い企業で使用されています。

GCP深川) セキュリティやプライバシー基準の要求について、リーガルドキュメントは機密性が非常に高いため、そうした要件についてもローカル対応が必要かと思いますが、いかがでしょうか。

藤井氏) 当社のソフトウェアは、インデントの自動調整や単純なミスの発見・修正といった機能が中心です。インデントについては、日本語、英語、韓国語のいずれでも同様の問題が発生するため、言語の違いや法律の違いに起因する問題は特に発生していません。

ただし、国によって契約書や法的文書の慣行が異なります。修正内容を相手方に送付する際に、変更履歴モードを使用するか、上書きして以前のバージョンとの比較資料を添付するかなど、様々な慣行の違いがあり、使用される機能の優先度には違いがあります。

そのため、言語対応後も、特に英語圏では日本ではあまり使用されない機能の拡充を行ったことがあります。

GCP深川) 最後の1~2割のローカライズについて、顧客に実際に使用していただかないとニーズを把握できませんし、アメリカ以外にも複数地域で展開している中で、細かなニーズを収集し対応していくのは相当な労力が必要かと思いますが。

藤井氏) おっしゃる通りです。英語版がある程度完成した後が非常に困難でした。当社のソフトウェアは、クラウドを意図的に使用せず、ローカルで全ての処理を行う仕様になっています。

当社からは、どのようなドキュメントを処理しているかを把握できません。しかし、逆にこれがあらゆる国で受け入れられる要因となっています。特に弁護士事務所などは機密情報を扱うためです。

一方で、ソフトウェアがどの程度適切に動作しているかを把握できないという課題もあります。そのため、最初の言語対応時、特にアメリカでは相当苦労し、まず試用していただける顧客を懸命に探すところから始めなければなりませんでした。試用後に正式な顧客になっていただくにはさらなるステップが必要で、展示会や様々なコネクションを活用して顧客を獲得し、試用していただくということを相当行いました。

日米韓の市場構造分析:意思決定プロセスの違いを読み解く

GCP深川) 日本では共同創業者の渡邊さんが西村あさひ法律事務所出身で、そこを起点として展開されたと理解していますが、海外ではアメリカと韓国が主要な展開地域ということでしょうか。

藤井氏) はい。日本と韓国は比較的類似した市場構造を持っており、アメリカは異なる特徴があります。

確かに日本でのビジネスが順調だったのは、渡邊が既存のネットワークを持っており、そこから様々なコネクションもあったため、彼のおかげで最初の顧客獲得が容易だったという側面があります。韓国でも実は類似した要素があります。

日本や韓国では、大規模な弁護士事務所—日本でいう5大法律事務所や4大法律事務所—が市場を牽引しており、明確にティア1とティア2が分かれています。ティア1の事務所が基本的にテクノロジーの導入を率先して行い、ティア2の事務所は「大手のA社が使用している」「大手のB社が使用している」といった形で追随する傾向があります。

ティア1からティア2、ティア3へと普及し、そこから企業の法務部門に導入されるというフローが比較的容易に構築できる流れになっています。韓国も比較的これに近い印象ですが、アメリカは事情が異なります。そもそも弁護士事務所の数が圧倒的に多く、国土も広大なため、弁護士や弁護士事務所が大量に存在することは誰もが認識しています。従って、明確に「ここが最強の弁護士事務所」という認識も多数存在し、「あそこが使用しているから我々も導入しよう」という流れは特に発生しません。

また、システム導入の意思決定プロセスも大きく異なります。これは弁護士事務所の規模にもよりますが、例えば日本で最大規模の西村あさひ法律事務所でも弁護士数は600~700名程度です。一方、アメリカのトップ100番目程度の弁護士事務所でも弁護士数は1000名程度で、最大規模の事務所では5000名を擁しています。

そうなると、これまで日本でよく見られた「ITに詳しい優秀なパートナーが承認すれば導入」という単純な構造ではなく、より組織化された意思決定が行われます。アメリカでは、弁護士経験のないCTOや、チーフナレッジマネジメントオフィサーのような職種が存在し、これらはITチームの拡大版のような位置づけで、意思決定の主体となっています。

この結果、実際の使用者と意思決定者の間に乖離が生じることがあります。弁護士は当社の製品を非常に気に入ってくれるのですが、ナレッジマネジメント担当者からは「AIではないのか?」といった反応があり、これが導入の障壁となることがありました。

アメリカ進出の試行錯誤:失敗から学んだ顧客獲得プロセス

GCP深川) 進出国を決定する際に、このような市場構造を理解し、実際の肌感覚を得るための調査期間はどの程度設けられたのでしょうか。

藤井氏) 正直に申し上げると、最初は「世界で成功するにはアメリカでしょう」という程度の感覚でした。ボストンに在住していましたし、卒業後もビザがあったため、まずはそこで挑戦してみようという、比較的単純な決定だったと言っても過言ではありません。

ただし、実際に経験を積んだ現在、改めて海外展開を検討するとしたら、必ずしもアメリカを選択するかは疑問です。意思決定の仕組みや競争の激しさなど、確かに市場は大きいのですが、その分異常に難易度が高いという課題があります。そのため、どのようにアプローチするかは慎重に検討する必要があると思います。

GCP深川) 創業からどの程度でアメリカでの顧客開拓活動を開始されたのでしょうか。

藤井氏) 創業から約1年半後だったと思います。

GCP深川) 1年半後に開始して、実際に1社目を獲得するまでの期間は。

藤井氏) 個人契約してくださる方はいらっしゃって、そのような方でも最初の契約まで約4ヶ月かかりました。大口案件が成約したのは約1年半後だったと思います。

GCP深川) アメリカでの顧客開拓活動開始から、成約まで相当な時間を要していますね。

藤井氏) かなり時間がかかりました。ターゲットセグメントも、実は当初は日本のやり方を模倣していた時期がありました。大手弁護士事務所からアプローチしようと考えていたのです。

そうすると、セールスサイクルが全く異なり、意思決定の違いにより2年間を要してしまいました。その時点で、そのセグメントを狙うべきではなかったということが明らかになりました。

GCP深川) 最初は日本の西村あさひのような、ピラミッドの上位から押さえる戦略をアメリカでも試行されたが、先ほどお話しいただいた産業構造と意思決定構造の違いにより、日本型のアプローチを試行されたということですね。

藤井氏) そうです。最初は日本型のアプローチを試みました。

当社の製品はエンドユーザーに非常に好評をいただけるソフトウェアです。日本の意思決定者は、元々弁護士である場合が多いため、製品をご覧いただくと価値を理解していただけます。「これは素晴らしい」と評価してくださいます。ただし、アメリカの大手弁護士事務所のパートナーも製品を高く評価してくださるのですが、その方は意思決定者から非常に遠い位置にいらっしゃり、実際の判断はナレッジマネジメントチームが行います。

そのようなナレッジマネジメントチームは2000名ものパートナーを抱えており、様々な意見が寄せられるため、個別の要望には対応しないという状況が発生します。従って、アプローチする対象も間違っていたということが、初期の課題でした。

GCP深川) それで1年から1年半の時間を費やして。

藤井氏) そうですね。最初の1年程度は時間を無駄にしたと反省しています。

GCP深川) ただし、その1年から1年半をかけて、最終的に到達したゴートゥーマーケット戦略や顧客セグメント、意思決定構造への対応はどのようなものでしたか。

藤井氏) 非常に明確で、大手弁護士事務所を完全に対象外とするということです。大手弁護士事務所は最初から対象にせず、小規模から中規模の事務所と、企業を対象としています。最近では、アメリカの大手保険会社や金融機関にもご導入いただいていますが、そのような企業が当社の対象セグメントです。

GCP深川) それは先ほどの意思決定構造の話でいうと、そのセグメントでは日本に近い意思決定者の構造になるということでしょうか。

藤井氏) その通りです。弁護士事務所の規模が小さいと兼務している場合が多く、距離感が近くなります。また、競合環境についても、日本のリーガルテックは10社程度ですが、アメリカでは約10,000社存在します。そのため、検討する側も疲弊しており、「BoostDraftもその他大勢の一つ」という扱いになりがちです。

小規模な事務所では、そもそもあまりテクノロジーを導入していないため、当社のソフトウェアは初めてのテクノロジー導入として非常に受け入れやすいという利点があります。そういう意味でも、小規模な事務所が適していました。

GCP深川) 最初の3社程度はどのような経緯で獲得されたのでしょうか。

藤井氏) 最初に大きく導入していただいたのは、サンフランシスコにあるFennemore Braun Martelという中規模の弁護士事務所です。約100名規模でした。これはウォームリード(自社の商品やサービスにある程度の関心を示している見込み顧客)で、コミュニティにいた知人の昔からの友人がそこのCEOだったという経緯でした。非常に好意的に対応していただき、ご紹介いただいて、製品も高く評価していただきました。

それが約2年前の冬のことでした。そこから「ぜひ導入したい」「まずはトライアルから」ということになったのですが、その後9ヶ月間音信不通になりました。その間、2週間に一度程度「いかがでしょうか」というメールを送り続けていました。

「もう完全に失注したのだろう」と思っていたところ、突然「準備が整ったので、パイロットを始めましょう」という連絡をいただきました。実際にパイロットを実施すると、様々なフィードバックをいただきました。最初はセキュリティの誤検知などもありましたが、そうしたフィードバックに真摯に対応し、機能の不具合なども迅速に修正いたしました。その結果、「問題に対する取り組み姿勢が素晴らしい」と評価していただき、正式に導入していただけました。これが1件目です。

GCP深川) それがアメリカでの活動開始から約1年半後ですね。

藤井氏) そうです。

GCP深川) そこから2社目、3社目はどの程度の期間で獲得されましたか。

藤井氏) 並行して様々なパイプラインを構築していました。Silicon Legal Strategyという、これもベイエリアにあるスタートアップ専門の約20名のファームがありました。これは展示会で最初のリードを獲得したと記憶していますが、そこは比較的早期に「良い製品だ」と評価してくださいました。約1ヶ月のトライアルを経て、全体で約6ヶ月で導入していただけました。1社目の約9ヶ月後には導入していただいていたと思います。

GCP深川) その後、自然に獲得しやすくなっていったのでしょうか。

藤井氏) それほど単純ではありませんでした。アメリカは非常に広大で、「Fennemore Braun Martelとはどこか?」という企業が大量に存在します。日本では100名規模の弁護士事務所は相当大きく、ほぼ全ての弁護士が認知していますが、アメリカではそのような認知度はなく、「それぞれが独立している」という意識が強いのです。

そのため、その後も相当苦労し、最終的にコールドコールやダイレクトマーケティングでリードを獲得したり、展示会でリードを獲得するということを継続的に行い、顧客を少しずつ増やしていきました。

GCP深川) Go to Marketの手法が確立し、藤井さんがいなくても再現可能な状態になるまでどの程度の期間を要しましたか。

藤井氏) そこまで到達するのに、私が今回帰国したのも、自分がいなくてもある程度回る状態になったと判断したからです。本当に最近のことで、昨年あたりに「これは時間をかけて人員を配置し、ダイレクトマーケティングやコールドコールを継続し、外部のエージェントも活用して顧客を集めれば、少しずつでも確実に成長する」という確信を得ました。それが昨年のことなので、開始から約3年半後ということになります。

組織構築の実践論:公用語英語化と国際チーム運営

GCP深川) アメリカ開始から1年半で1社目を獲得し、そこから2年程度で戦略が確立し、ご自身がいなくても再現可能な成長モデルができたイメージですね。

藤井氏) そうですね。

GCP深川) 3年間はフルタイムで現地にいらっしゃったのですね。

藤井氏) ずっとフルタイムで現地におり、自ら営業活動を行っていました。コールドコールなどは、英語ネイティブではないため対応が困難で、そのような人材も採用する必要がありました。人材採用でも相当失敗を重ねたため、そのような経験に時間を要しました。

GCP深川) 人材の話が出ましたので、組織について時系列でお聞きします。

もともとアメリカでMBA中に設立した会社ということで、最初から社内公用語が英語で、人種や背景に関係なく採用されていたのでしょうか。

藤井氏) いえ、最初のメンバー、1人目、2人目の社員は日本人でした。その時点では、グローバル展開を非常に強い意志として持っていたわけではありませんでした。

3人目のエンジニアを採用する際に、たまたまその方が台湾出身で日本語を話せませんでした。その時に、ここで公用語を英語にするべきかどうか相当悩みました。

顧客は日本が増加するだろうが、海外も増加すると考えられるため、英語にするべきではないかと考える一方で、最初の2名に対して「突然英語が公用語になります」というのはあまりにも申し訳ないという思いもあり、相当悩みました。しかし、最終的に「公用語は英語にしよう」と決断し、3人目を採用してからは、ほぼ外国人を採用するようになりました。

GCP深川) 現在50名の組織のうち、創業者を除いた最初の3名は全員エンジニア、プロダクトエンジニアで、現在も組織の約7割がプロダクトエンジニアですよね。

藤井氏) そうです。最初の営業担当者を採用したのは、組織が10数名になってからでした。最初は日本の営業担当者です。当初は日本の営業は創業者の渡邊が一人で担当しており、一人では対応しきれないほど顧客が増加したため採用することになりました。それまでは、残りのほぼ全員がプロダクトのソフトウェアエンジニアでした。

GCP深川) アメリカや韓国展開におけるGlobal Go to Market Teamは何人目の段階でどのように立ち上げられたのでしょうか。

藤井氏) 海外のBizdev、いわゆるGo to Marketを担当する人材は基本的に経営陣だと考えています。アメリカについては私が社長として担当し、韓国についても最初は私と渡邊で対応していました。基本的にGo to Marketは最上位の人間が担当するというのが当社の思想です。

GCP深川) アメリカの話に戻りますが、最初の1年半、相当苦戦されていた時期は、藤井さん一人で対応されていたのでしょうか。

藤井氏) 私と1~2名程度でした。

GCP深川) その方々はどのように見つけて、Go to MarketのためのSales Teamを構築されたのでしょうか。

藤井氏) 基本的にLinkedInで探して募集を出すと相当な応募があります。そのような人材を採用しては失敗するということを繰り返していました。最初の人材を採用するかどうかについても議論がありました。

日本では基本的に渡邊が一人で営業を担当していたため、アメリカでも営業チームは不要ではないかという説もありました。

GCP深川) 一人で対応されていた期間はどの程度でしょうか。

藤井氏) 約半年間一人で対応し、これは非常に時間がかかるし、資金に余裕があれば絶対に人材を採用するべきだと判断し、採用を開始しました。

GCP深川) その時点では先ほどの産業構造や意思決定構造、狙うべきセグメントはまだ明確になっていなかったが。

藤井氏) 全く明確になっていませんでした。一緒にGo to Market Fitを探すメンバーという位置づけでした。

GCP深川) それは困難ではありませんか。

藤井氏) 非常に困難でした。相当悩んでいました。当社はリーガルテックスタートアップで、セールス人材を探しているという状況で、リーガルテック経験を重視するか、スタートアップ経験を重視するか、セールス経験を重視するかという選択肢がありました。これらすべてを満たす人材は存在しません。

スタートアップ経験があっても、当社のソフトウェアと異なる場合は販売できない場合もあります。ここで相当迷い、様々なアプローチを試行しました。リーガルテックセールス経験者なども探しました。

GCP深川) 定着状況はいかがでしたか。推察するに相当な人数が入れ替わったのではないでしょうか。

藤井氏) 最初の3~4名は相当入れ替わりました。1人目はどのように評価すべきかも分からない状況でした。

対応した人材は「興味深い製品ですね」と言って約2ヶ月間様々な活動を行い、週2回程度のキャッチアップを実施していました。2ヶ月後にログを確認すると、ソフトウェア使用ログも確認できるのですが、デモを実施して販売するはずなのに、一度もソフトウェアを使用していなかったことが判明し、即座に解雇しました。

GCP深川) それはフルタイムではなく業務委託でしょうか。

藤井氏) フルタイムです。

GCP深川) フルタイムで数名を比較的短期間で。

藤井氏) そうです。一人ずつ順番に試行していました。

GCP深川) アメリカで実施するなら採用してから検証する方が効率的で適切だったということでしょうか。

藤井氏) そう思います。PMFを一緒に探索する人材を採用するという考え方がありますが、正直に申し上げて不可能だと考えています。会社を設立した創業者が何がPMFかを理解している状態で、チームメンバー、特にセールス人材を採用し、そこからの情報を全て収集して、常に日々意思決定を行うということをしなければ、PMF達成はほぼ不可能だと思います。

それぞれが過去の経験に縛られて判断を行い、最初の時間を無駄にしたということも相当ありました。「この人は外国人で経験も長いし、信頼しよう」という感覚で進めてしまったのは間違いで、それで大手弁護士事務所にアプローチして時間を無駄にしました。彼は「リーガル領域は非常に時間がかかる」と主張していましたが、「時間をかけると当社が破綻する」と考え、最終的にそのような意見は全て排除して、「私が決定する」という姿勢で強力に推進したということがあります。

GCP深川) 3~4人目の人材が定着して共同作業が可能になり、チーム化できたのは、単純に優秀な人材を採用できたというより、藤井さんのコミットメントと、自らGo to Marketを模索するということを実行した結果、ちょうど見えてきた時期にその人材が入社したということでしょうか。

藤井氏) そのような側面もあると思います。私の知識や経験がもう少しあれば、より適切に対応できたかもしれません。

これまでは「あなたはどう考えるか」ということを聞いていましたが、最初の段階ではそのようなことは一切せず、「絶対にそのような領域を選択するな。このセグメント以外は狙うな」ということを非常に強く指示したり、無駄だと分かっている部分がどんどん見えてきたため、現在はそれが明確になっており、そのような部分は絶対に避けるよう指示し、実行しそうになったら「なぜそれを行うのか」と質問することで、無駄をどんどん削減し、重要な部分にフォーカスさせるようになりました。

権限移譲と今後の展望:世界展開への野望と起業家へのメッセージ

GCP深川) 現在は帰国されていますが、任せられる状態、つまり一つのチームが存在すると思いますが、そこに至るまでの組織の変化と、帰国して問題ないかという判断について教えてください。

藤井氏) 組織は、もともと私プラス1名という形で、その1名が交代していましたが、「この1名を増員すれば売上が増加する」ということが見え始めました。それが約1年半前で、先ほどの手法が明確になってきたタイミングです。

そこでもう少し人員を増やそうということで、2名、3名程度に増員しました。しかし、私がいなくなると、この3名を誰が指揮するのかという問題が発生するため、私の後任となる人材をずっと探していました。

それは、例えばMBAの人材などと話をしたり、あるいは日本やベイエリアにいる人材など、様々なコネクションを活用してその候補となる人材を探していました。最終的に約3名の候補がいて、入社の可能性がある人材もいました。

試験的に一時的に入社してもらって共同作業を行ったが「何か違う」と感じたり、あるいは入社すると言っていたのに、直前で「やはり他社に行きます」と言われたりしましたが、3人目でついに適切な人材を見つけることができました。その方のパフォーマンスは非常に優秀なため、その方に委任して問題ないと判断しました。

GCP深川) どの程度並走して共同作業を行い、委任して問題ないと判断されたのでしょうか。

藤井氏) その方はたまたま日本人で、英語も相当話せて、日本の業務なども手伝ってくださっていました。元々の関係もあったため、並走期間は長かったのですが、これまで並走して「違う」と感じた人材については、大体2~3ヶ月のパートタイムで対応してもらうということを行っていました。

やはり上位のポジションになるため、方針やバイブスが合わないと相当困難になります。そのような意味では、大体並走してもらうことが多いです。

GCP深川) 最後に「BoostDraftで今後どのようなことを実現したいかということ」と、「海外展開を目指すスタートアップが増加している中で、そのような方々への経験に基づくメッセージやアドバイス」をお聞かせください。

藤井氏) ありがとうございます。BoostDraftで今後実現したいことについてですが、公用語を英語にした時からの思いでもありますが、この一つの日本発のプロダクトを世界中で使用していただけるようになりたいという思いは非常に強いです。もちろん英語圏への展開もありますが、当社が特に注目しているのは英語以外の言語圏で、これは大きなホワイトスペースだと考えています。韓国への展開を積極的に行っていますし、現在はたまたまイスラエルの弁護士事務所にも使用していただいています。まだ英語で使用していただいていますが、ヘブライ語対応についても検討が出てきています。「右から左への表記は困難ではないか」といった議論もありますが。

また、インドなどへの展開も検討しており、そのような意味で様々な言語に対応して、世界中で使用されるようになりたいというのが一つの目標です。

もう一つは、現在はドキュメントの体裁や煩雑な作業の自動化を行っていますが、その隣接領域には非常に多くのワークフローの課題が存在します。

例えば、文書を比較する際も、PDFとWordを比較する際は目視で選択して作業していたりします。そのような隣接領域、バリューチェーンプロセスの隣接領域に進出し、そこでのプロダクトをどんどん開発して、バンドルして販売していきたいと考えています。当社でベンチマークにしている企業があり、JetBrainsというコーディングエディターの会社があります。

同社はもともとJavaのプログラミングエディターから開始しましたが、どんどんC++やC#など様々な言語に対応し、かつチームコラボレーションなどにも展開し、現在のARRは約700億円に達しており、ブート ストラップで成長しています。

そこをベンチマークにしながら、多言語展開、かつ隣接領域への展開により、どんどん世界中で使用されるようになっていきたいというのが、BoostDraftでの目標です。

海外展開を希望される方々に向けたアドバイスとしては、最も重要なのは、自分しか信頼できないということです。

自分が現地に行き、どれだけチームを構築し、どれだけ優秀な人材を獲得しても、自分以上の成果は絶対に期待できません。自分が最も詳しいという自信を持って、海外に自ら赴き、そこで様々な人材と協働しながら全ての知識を自分に集約し、細かく意思決定することで、初めてPMFが達成できると考えています。

そのため、アメリカなどに行って英語が不完全で、適切に対応できず、自信を失ってすぐに言いくるめられてしまうと思いますが、そこは英語を頑張って自信を持って「あなたの言っていることは間違っている」ぐらいの姿勢で臨まなければ、人にハンドルを握られた状態では絶対にPMFは達成できません。

自分がパイロットとなって、ドライバーとなって推進していくということが非常に重要だと考えています。

GCP深川) 10年前の藤井さんの英語力を勝手に評価するのは失礼ですが、当時はそれほど高くなかったのではないでしょうか。

藤井氏) 本当にその通りです。MBA進学時も非常に苦労しました。しかし、公用語を英語にすると、面接の段階から自分の英語を学習でき、練習もできます。また、英語で伝えるのは困難ですが、最近は辛い相談なども英語で受けるため、そのような英語も使用し、明らかに現在の会社で公用語を英語にしてから、英語力は大幅に向上しました。

GCP深川) 本日はBoostDraftの藤井社長にインタビューしました。ありがとうございました。

以上

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